Share

3話 正体バレ

Author: ニゲル
last update Last Updated: 2025-04-20 18:59:37

「良い動きだった。最近君の活躍はめざましいね。これは君のファンも中々できたんじゃないかな?」

ノーブルがこちらに駆け寄って来て賞賛の言葉を投げかけてくれる。

「いやいやそんなノーブルさ……」

「待て待て。わたし達は同列の仲間だ。序列なんて作りたくない。だからわたしのことは呼び捨てでってこの前言ったろう?」

「はい……!! でもノーブルにはまだまだ及ばないよ。こっちや先のことまで気を配ってて……目先のことしか見えてなかった私とは大違いだよ!」

「うん……そうだね……あ、それより一つ頼み事してもいいかな?」

表情から余裕の色が消え、申し訳なさそうにしながら頭を掻く。

「もうあんまり時間なくて、助けた人とか任せても良い?」

「うんもちろん! 今日もありがとね!」

ノーブルは一言こちらにお礼を言い足早に去っていきすぐに見えなくなる。

「えーっと、そこのお兄さん大丈夫だった? 怪我はない?」

戦いでよく見えなかったが、もし彼が動けない程の怪我をしていたら大変だ。私はすぐに彼の元まで向かい容態を確認する。

「け、怪我はないです……ありがとうございます」

青年は恐怖という鎖から解放され何事もなくスッと立ち上がる。だが表情は暗く笑顔が失われたままだ。

「待って!! えっとその……何か困っていることとか……あるの?」

キュアヒーローの使命はイクテュスを倒し"人々の笑顔を守る"ことだ。それなら私は後者の使命を果たせていない。

「いや何もない……です……その、ありがとうございました」

彼は壊れた自転車を用水路から引っ張り上げ、もう直せるはずもないそれを見て肩を落とす。

「あのっ……」

「あぁいやもういいよ。見た感じ高こ……中学生? 君は学校あるでしょ? ここからはヒーローがどうこうする問題じゃないから気にしないで」

「……はい」

実際壊れた自転車を直す術なんて持ち合わせていない。彼の悩みはそれだけじゃないように思えたが、深くは立ち入らせてくれなさそうだ。

(ヒーローの問題じゃない……か)

私は結局彼の笑顔を見ることなくこの場から去り学校への道に戻るのだった。

☆☆☆

「誰にも見られてない?」

「うんもちろん」

一限目の途中。テレパシーでコピー人形の私を学校の人目のない物陰に呼び出す。

「じゃ、おやすみね」

「うんおやすみ」

コピー人形は姿を元の小さな人形に戻し地面に落ちる。私はそれを制服の中にしまい教室に急いで戻る。

今日の一限は私の大嫌いな数学だ。授業を聞いていてもテストで赤点ギリギリなのに、授業すら聞かなかったら悲惨なことになる。

しかし戻った時には授業は半分以上終わってしまっており、内容はほとんど理解できなかった。

「うぅ……頭が痛い……」

私は給食を食べ終えてぐったりと机に伏していた。

「まぁ今日は高嶺が苦手な科目が詰まってるからね」

「そうだよー! 月曜日から数学、物理、化学が続いてるなんてキツすぎるよ~! 大体何で三角形の角度やら広さを求めないといけないのよ! あんなの将来何の役に立つのよ……」

私は憂鬱なこの一日に愚痴を吐き余計にない体力を消耗する。流石にキュアヒーローとしての活動をしてからこのハードスケジュールは堪える。

なにより今日助けた人が笑顔になってくれなかったことが一番心にモヤをかけていた。

別に私は見返りが欲しくてキュアヒーローをやっているわけではない。この街が好きで、みんなに笑顔でいてほしいからやっているのだ。だがその笑顔すら守れないのは自分自身の存在価値を否定されているような気がした。

(でも多分イクテュスや私達以外の悩みだったろうし……)

「まぁでも無駄だと思っていることも役に立つんじゃない? 親戚のお兄さんも意外なことが役に立ったって言ってたし」

「波風ちゃんの従兄弟の? 確か理系の大学行ったんだよね?」

私は数回会った程度だがあのインパクトは忘れない。何でも知ろうとする好奇心の強い……かなり独特な人だ。

「そういえばあの大学でキュアヒーローとイクテュスについても調べてるって言ってたわね。色んな人と協力しながら最先端機器も使って調べてるらしいわよ」

「え!? キュアヒーローについて!?」

「そうだけれど……どうしたのそんな慌てて?」

「え、いや……お、驚いただけだよ」

冷や汗が流れる。もしかするとそのうち私の正体を突き止められるかもしれない。

キュアリンからはキュアヒーローのことは絶対に誰にも知られるなと釘付けされている。知られれば確実に面倒事になり今まで通り迅速なイクテュスへの対応ができなくなると。

それは一番避けたい事態だ。私がバレても他のキュアヒーローは二人居るが、二人の場合場所的に間に合わなかったり人手が足りなくなることもある。

「ねぇ波風ちゃん……そのお兄さんに会わせてもらうことってできる?」

危ないかもしれないが一歩踏み出すことにする。より多くの笑顔を守るために。

Continue to read this book for free
Scan code to download App

Related chapters

  • 高嶺に吹く波風   4話 キュア星人

    「ふぅ。今日も学校疲れたー!」 私は荷物を部屋に放り投げ、ベッドにダイブする。橙色に包まれた部屋に、このふかふかのベッド。やはり安心する。 今日の疲れもあって私はうとうととしてしまい、眠りへと誘われる。 「おーい。昼に俺に家に来いってテレパシーで呼んだの忘れてるのか? 居るぞー」 横になった私の頭を、兎の妖精キュアリンがつんつんと突く。 「もう流石に寝ないって。疲れたからベッドに飛び込みたかっただけ」 「本当か? お前は単純な所があるからな。まぁそこが良い所でもあるけど」 彼はキュアリン。"彼"という通り可愛らしい見た目の反面性別は男性であり、キュアリンという名前も日本のセンスに合わせれば「大地」という名前のようになるらしい。 彼らはキュア星という遠く離れた惑星から来た宇宙人で、地球に来て調べてる際にその時期に偶然出現したイクテュスに対抗する策としてキュアヒーローの変身道具を使ったらしい。 とはいえキュアヒーローは一定範囲内に居る同族の希望を集めて力に変える装置。地球においてキュア星人にはガラクタ当然だった。 「単純って……でもそんな私にこれを渡したのはキュアリンでしょ?」 キュアヒーローが現れ配信が始まってから半年程経過した頃、一ヶ月前に私はこのブローチをキュアリンに渡されたのだ。 その日から私はキュアヒーローとなり、ノーブルに助けてもらいながらも頑張ってきた。肝心のもう一人のアナテマにはタイミングが悪く会えていないが。 「そうだな……それでテレパシーで言っていたキュアヒーローが探られてるって話は本当なのか?」 「うん。波風ちゃんの親戚の大学生が調べてるらしい。しかも色々設備とか先輩とかも巻き込んでやってるっぽい」

    Last Updated : 2025-04-21
  • 高嶺に吹く波風   5話 両親

    「こらこら波風ちゃんも居るんだしお行儀良くね」「ふ、ふぁい。ほへんはふぁい」 トーストを飲み込むように喉奥に押し込みつつ牛乳で流し込む。「ご飯ありがとねお義父さん!」「どういたしまして。今日は研究で帰るの遅くなりそうだからまたその……ごめんね」「ううん気にしないで。研究頑張ってね」 お義父さんは研究で大忙しであり特に最近は家族の時間がかなり減っている。だが仕事だから仕方ない。私はそう言い聞かせて甘えたい気持ちをグッと抑える。 残りのベーコンと目玉焼きを食べ洗面所に向かう。 「高嶺……また胸大きくなった?」 着替えていると波風ちゃんがひょこりと顔を出し、私が着替える様子を不審者のおっさんのように覗く。発言もセクハラめいていて一気に年老いたようだ。「もう。気にしてるんだからあんまりそういうこと言わないでよ」「気にしてる? 育ってるんなら良いじゃない。成長しないより……」 波風ちゃんは恨めしい視線をこちらに送ってくる。鋭いそれは私の胸に突き刺さり貫通する。「でも大きくなると動きにくいんだよね。体育の時も邪魔だし、ブラのサイズを変えるのも面倒だし」「……それ嫌味?」 波風ちゃんから放たれる視線が更に強く厳しいものになる。睨まれたまま着替えを進め準備もやがて終わる。「じゃあお義父さん行ってきまーす!」「失礼しましたおじさん」 私達は玄関に行き靴を履く。「うん行ってらっしゃい。波風ちゃんもまたいつでも来ていいからね」「はい! ありがとうございます」 波風ちゃんが外に出て私もその後に続こうとする。だがその前に置いてある一つの写真に向き直る。「行ってきます…….お父さん。お母さん」 私はもういない両親にもしっかり挨拶し波風ちゃんを追いかける。 「そういえば……震災からもうちょうど十年なんだね」

    Last Updated : 2025-04-22
  • 高嶺に吹く波風   6話 仮説と考察

    「えーっとそれで、健さんはキュアヒーローについてはどこまで調べて……?」 部屋から出てすぐに私は探りを入れる。キュアヒーローについて健さんがどこまで情報を握っているか、真相にどこまで迫っているか確かめるため踏み込む。 「色々だね。今現在活動しているのは三人。 まず一番歴が長いキュアノーブル。イクテュスが現れてすぐ登場して、自慢の光の能力で毎回華麗に敵を倒すね」 私がお世話になっているあのイケメン美少女の人だ。優雅に敵を倒し、キュアヒーローが地球に現れてから常に人気No. 1だ。 「でも一時期出てくる頻度が下がっていた期間がある。その時に現れたのがキュアアナテマだ。彼女は闇の力でノーブルとはまた違うやり方で戦う」 直接会ったことはないが配信上では何回か見たことはある。万物を引き寄せる闇の力と格闘術で隙なく戦う私なんかよりずっと強い憧れのヒーローだ。 「あれ? でももう一人居なかったっけ? 引退したのか見なくなったけど」 「あぁキュアフィリアだね。あまり目立った活躍もなくいつのまにか来なくなっていたが、情報を見た感じ戦うことに乗り気ではなかったようだし、恐らく引退したんだろう」 私もその人は名前くらいしか知らない。ノーブルさんに最初の頃聞いてみたが何故かはぐらかされてしまって分からずじまいになっている。 「そして最後に新人のキュアウォーター。最近現れた期待の新星だね。街を守ることに熱心で向上心も見られる。それに可愛いって評判だね」 「か、可愛いですか……えへへ……」 「どうしたの高嶺? また月曜の登校した時みたいな気持ち悪い顔して」 「えっ!? いや何でもないから……それより健さん続きを!」 相変わらず私は顔に出やすく、バレないよう動かないといけないのにもうボロを出しそうになってしまう。 「それで彼女達の能力だが……俺は二つ仮説を出している」 「二つ……聞かせてもらえますか?」 「まずは政府が作った新兵器説だね。核兵器があるとはいえあれは最終手段でありリスクも大きい。憲法もあるしね。 だからこそちょうど良い強さであるキュアヒーローを開発し、偶然現れたイクテュスでテストしているってところかな」 予想は大きく外れていたので私はホッと胸を撫で安堵する。 「それで二つ目は?」 「宇宙人が持ち込んだ技術……かな」 「

    Last Updated : 2025-04-22
  • 高嶺に吹く波風   7話 照れ隠し

    「ここが図書館だね」 「図書……え? この建物全部がですか!?」 着いたのは三階建ての中学の校舎ほどの広さをを持つ建物。これ全部が図書館であるようだ。 「そうだね。俺も初めて来た時はビックリしたよ。見せたい資料は三階にあるから行こうか」 健さんは階段の前にあるゲートにカードをかざして開けてくれる。学外の人は本来入れないらしいが、受付の人に頼み見学として特別に私達も入っていいことになる。 階段を昇り三階まで着くとそこはびっしり本を敷き詰められた本棚が大量に置いてある空間だった。 「二階にもかなり本があったけれど、ここも中々あるわね。これ全部勉学に関するものなの?」 「らしいね。流石の俺でも大学生活通して5%も読めないだろうね。それと見せたいのはこっちね」 健さんは扉を開け薄暗い部屋に入っていく。ひんやりと冷たい空気が足元を掬い、目の前の大きな棚が私達を待ち受ける。 「えっと確かあの新聞は……こっちか」 健さんが棚の一つから新聞を取り出しページをぺらぺらとめくる。 「ほらこれこれ。イクテュスについて載っているだろ?」 新聞にはヤドカリのような貝を背負ったイクテュスの写真が貼ってあり、見出しには「また現れた異形の怪物! その正体に迫る!」と書かれている。 「まぁゴシップレベルの信憑性の内容だけど、中々興味深いことも書かれていてね」 見出しの下の文章をじっくりと眺めてみる。 恐らく健さんの興味が惹かれたであろう箇所を見つける。イクテュスが地球の生物を改造されて生み出されたものではないかという旨のものだ。 (イクテュスは自然発生ではなくて人為的に誰かしらに生み出された……か。キュアリン達も調べてるけどまだあいつらの正体に分かってないらしいし、実際のところどうなんだろ) あいつらは死んだら灰になってしまうため地球の人やキュア星人は何も足取りを掴めていない。 「俺はその記事に賛成かな。少なくともイクテュスは自然発生ではないと思う。人為的に作られた存在だろう。流石に誰が作ったまでは分からないけど」 今まで考えたことなかったが、一体イクテュスはどこから来て襲撃はいつ終わるのだろうか? 私は波風ちゃんやノーブルや健さんとは違いあまり頭が良くない。目先のことしか見えておらず、イクテュスから人々を守ることしか考えていなかった

    Last Updated : 2025-04-22
  • 高嶺に吹く波風   1話 キュアヒーロー

    「なぁなぁ先週のキュア配信見たか?」 「あぁキュアノーブルの? 相変わらず強かったよな〜」 私達の横を同学年の男子達が他愛のない話をしながら通過する。 「でもさ……キュアウォーターも良くなかったか? あの青い新人の子」 会話の中にある一つの単語に反応し、盗み聞くわけではないがより神経を耳に集中させてしまう。 「あぁあの子? 新人なのに気合い入っててすごいよな〜何より可愛いし」 (か、可愛いか……うへへへ) つい笑みが溢れてしまう。何を隠そうとこの私が今二人が話しているキュアウォーターなのだから。 「高嶺《たかね》? 何気持ち悪い顔してるの? あとボッーと歩かないで車に轢かれるわよ」 私の大親友である波風《なみか》ちゃんが横断歩道の前で肩を掴み止めてくれる。信号は赤になっており先程の男の子達は既に横断歩道を渡り終えていた。 「あっ、ごめん! ちょっと考え事してて……あはは……」 「アンタ最近ボーッとしてること多いわよ。何かあったの?」 「え……いや……何もないけどぉ?」 波風ちゃんは相変わらず勘が鋭い。それに対して私は嘘をつくのが下手で彼女から疑いの眼差しを現在進行形で向けられる。 「はぁ……別にいいわよ隠しても。でも何かあったらアタシを頼りなさいよ」 「あはは……そうなったらごめんね」 なんだかんだ言ってかれこれ十年以上の付き合いだ。お互い信頼し合っている。 [おい高嶺大変だ! またイクテュスが出た! しかもここから近い!] 私達が仲良く通学路を歩いている最中。無粋にも突然脳内に私だけにしか聞こえない声、テレパシーが届く。 [今!? 通学路に居るんだけど……それも友達と一緒に! どうしよう!?] 私は口を閉ざしたままテレパシー上で応答する。 [そこなら近くに公園がある! トイレに行くふりをしてコピー人形と成り代わるんだ!] (う、うぅ……ごめんね波風ちゃん。これも街を守るためだから!) 「い、いててて……ごめん波風ちゃん! お腹痛くなっちゃって。トイレ行ってくるから先に行ってて!」 私は近くの公園へと駆け出し波風ちゃんを置いていく。 「え? 高嶺!! 学校間に合うのそれ!? ちょっと!!」 こちらを呼び止めようとする彼女を無視し心の中で謝罪しながら公園へと駆け込む。 「ここなら誰も見てない

    Last Updated : 2025-04-20
  • 高嶺に吹く波風   2話 水の力

    「反応はここら辺……あっ!!」 私は上空から落下しながらモンスターを探していると田んぼの用水路の近くに人と同じくらいの大きさの化け物を見つける。 赤く硬い鎧を纏った両手に大きな鋏を持ったザリガニだ。ただ肥大化したのではない。針のような足を地面に突き刺し二足歩行のフリをしている。 「あ……あ……」 奴の近くで眼鏡をかけた青年が腰を抜かしていて、乗っていたと思われる自転車がザリガニの近くに落ちており真っ二つにされている。 「その人から離れろっ!!」 私は手から圧縮した水をレーザーとして発射する。しかし奴の甲羅は硬く鉄をも貫くレーザーが弾かれてしまう。 「うっ……!!」 一旦レーザーを止める。出力を高めれば貫けるかもしれない。だがもしまた弾き返されてしまったらあの人にレーザーが当たってしまう可能性がある。 (あの人腰を抜かしてるし……助けようにも両手が塞がってたら私がやられちゃうしどうしたら……) 奴と私が互いに睨み合う硬直状態に入る。レーザーがダメなら最悪ステッキで殴ったりも考えたがあの甲羅には通用しないだろう。 「シャインアロー!!」 しかし背後から叫び声と共に光の矢が飛んでくる。それは甲羅を貫通し奴の肩に突き刺さる。 《来たー!! キュアノーブルだ!!》 《美少女王子様は今日も格好いいなぁ……》 《最推しきたぁぁ!!》 彼女が姿を現すと私の方の視聴者がその人、キュアノーブルに釘付けになる。 黄金に輝く髪を後ろで結び、衣装には宝石らしきものがいくつかついている。まるで中世の貴族が本から飛び出してきたみたいだ。 「君はそこの人を安全な場所に!」 「はい!」 光の力で戦う私の先輩キュアヒーローであるキュアノーブル。人気は一番であり私が変身したての頃にも助けてもらっている。 相変わらずのリーダーシップと頼り甲斐のある背中であり、私は指示に従って一般人の青年を避難させるべく肩を貸す。 「動ける?」 「は、はい……すみません……!!」 背中はノーブルに任せて安全な場所まで彼を運ぶ。かなり距離を取った後すぐさまノーブルの元まで戻る。 手伝った方が良いかもと思ったが流石は彼女だ。私が苦戦した相手に汗一つかかずに押している。 「トドメ……」 ノーブルは光を纏わせ鋭さを与えたステッキを振り上げる。しか

    Last Updated : 2025-04-20

Latest chapter

  • 高嶺に吹く波風   7話 照れ隠し

    「ここが図書館だね」 「図書……え? この建物全部がですか!?」 着いたのは三階建ての中学の校舎ほどの広さをを持つ建物。これ全部が図書館であるようだ。 「そうだね。俺も初めて来た時はビックリしたよ。見せたい資料は三階にあるから行こうか」 健さんは階段の前にあるゲートにカードをかざして開けてくれる。学外の人は本来入れないらしいが、受付の人に頼み見学として特別に私達も入っていいことになる。 階段を昇り三階まで着くとそこはびっしり本を敷き詰められた本棚が大量に置いてある空間だった。 「二階にもかなり本があったけれど、ここも中々あるわね。これ全部勉学に関するものなの?」 「らしいね。流石の俺でも大学生活通して5%も読めないだろうね。それと見せたいのはこっちね」 健さんは扉を開け薄暗い部屋に入っていく。ひんやりと冷たい空気が足元を掬い、目の前の大きな棚が私達を待ち受ける。 「えっと確かあの新聞は……こっちか」 健さんが棚の一つから新聞を取り出しページをぺらぺらとめくる。 「ほらこれこれ。イクテュスについて載っているだろ?」 新聞にはヤドカリのような貝を背負ったイクテュスの写真が貼ってあり、見出しには「また現れた異形の怪物! その正体に迫る!」と書かれている。 「まぁゴシップレベルの信憑性の内容だけど、中々興味深いことも書かれていてね」 見出しの下の文章をじっくりと眺めてみる。 恐らく健さんの興味が惹かれたであろう箇所を見つける。イクテュスが地球の生物を改造されて生み出されたものではないかという旨のものだ。 (イクテュスは自然発生ではなくて人為的に誰かしらに生み出された……か。キュアリン達も調べてるけどまだあいつらの正体に分かってないらしいし、実際のところどうなんだろ) あいつらは死んだら灰になってしまうため地球の人やキュア星人は何も足取りを掴めていない。 「俺はその記事に賛成かな。少なくともイクテュスは自然発生ではないと思う。人為的に作られた存在だろう。流石に誰が作ったまでは分からないけど」 今まで考えたことなかったが、一体イクテュスはどこから来て襲撃はいつ終わるのだろうか? 私は波風ちゃんやノーブルや健さんとは違いあまり頭が良くない。目先のことしか見えておらず、イクテュスから人々を守ることしか考えていなかった

  • 高嶺に吹く波風   6話 仮説と考察

    「えーっとそれで、健さんはキュアヒーローについてはどこまで調べて……?」 部屋から出てすぐに私は探りを入れる。キュアヒーローについて健さんがどこまで情報を握っているか、真相にどこまで迫っているか確かめるため踏み込む。 「色々だね。今現在活動しているのは三人。 まず一番歴が長いキュアノーブル。イクテュスが現れてすぐ登場して、自慢の光の能力で毎回華麗に敵を倒すね」 私がお世話になっているあのイケメン美少女の人だ。優雅に敵を倒し、キュアヒーローが地球に現れてから常に人気No. 1だ。 「でも一時期出てくる頻度が下がっていた期間がある。その時に現れたのがキュアアナテマだ。彼女は闇の力でノーブルとはまた違うやり方で戦う」 直接会ったことはないが配信上では何回か見たことはある。万物を引き寄せる闇の力と格闘術で隙なく戦う私なんかよりずっと強い憧れのヒーローだ。 「あれ? でももう一人居なかったっけ? 引退したのか見なくなったけど」 「あぁキュアフィリアだね。あまり目立った活躍もなくいつのまにか来なくなっていたが、情報を見た感じ戦うことに乗り気ではなかったようだし、恐らく引退したんだろう」 私もその人は名前くらいしか知らない。ノーブルさんに最初の頃聞いてみたが何故かはぐらかされてしまって分からずじまいになっている。 「そして最後に新人のキュアウォーター。最近現れた期待の新星だね。街を守ることに熱心で向上心も見られる。それに可愛いって評判だね」 「か、可愛いですか……えへへ……」 「どうしたの高嶺? また月曜の登校した時みたいな気持ち悪い顔して」 「えっ!? いや何でもないから……それより健さん続きを!」 相変わらず私は顔に出やすく、バレないよう動かないといけないのにもうボロを出しそうになってしまう。 「それで彼女達の能力だが……俺は二つ仮説を出している」 「二つ……聞かせてもらえますか?」 「まずは政府が作った新兵器説だね。核兵器があるとはいえあれは最終手段でありリスクも大きい。憲法もあるしね。 だからこそちょうど良い強さであるキュアヒーローを開発し、偶然現れたイクテュスでテストしているってところかな」 予想は大きく外れていたので私はホッと胸を撫で安堵する。 「それで二つ目は?」 「宇宙人が持ち込んだ技術……かな」 「

  • 高嶺に吹く波風   5話 両親

    「こらこら波風ちゃんも居るんだしお行儀良くね」「ふ、ふぁい。ほへんはふぁい」 トーストを飲み込むように喉奥に押し込みつつ牛乳で流し込む。「ご飯ありがとねお義父さん!」「どういたしまして。今日は研究で帰るの遅くなりそうだからまたその……ごめんね」「ううん気にしないで。研究頑張ってね」 お義父さんは研究で大忙しであり特に最近は家族の時間がかなり減っている。だが仕事だから仕方ない。私はそう言い聞かせて甘えたい気持ちをグッと抑える。 残りのベーコンと目玉焼きを食べ洗面所に向かう。 「高嶺……また胸大きくなった?」 着替えていると波風ちゃんがひょこりと顔を出し、私が着替える様子を不審者のおっさんのように覗く。発言もセクハラめいていて一気に年老いたようだ。「もう。気にしてるんだからあんまりそういうこと言わないでよ」「気にしてる? 育ってるんなら良いじゃない。成長しないより……」 波風ちゃんは恨めしい視線をこちらに送ってくる。鋭いそれは私の胸に突き刺さり貫通する。「でも大きくなると動きにくいんだよね。体育の時も邪魔だし、ブラのサイズを変えるのも面倒だし」「……それ嫌味?」 波風ちゃんから放たれる視線が更に強く厳しいものになる。睨まれたまま着替えを進め準備もやがて終わる。「じゃあお義父さん行ってきまーす!」「失礼しましたおじさん」 私達は玄関に行き靴を履く。「うん行ってらっしゃい。波風ちゃんもまたいつでも来ていいからね」「はい! ありがとうございます」 波風ちゃんが外に出て私もその後に続こうとする。だがその前に置いてある一つの写真に向き直る。「行ってきます…….お父さん。お母さん」 私はもういない両親にもしっかり挨拶し波風ちゃんを追いかける。 「そういえば……震災からもうちょうど十年なんだね」

  • 高嶺に吹く波風   4話 キュア星人

    「ふぅ。今日も学校疲れたー!」 私は荷物を部屋に放り投げ、ベッドにダイブする。橙色に包まれた部屋に、このふかふかのベッド。やはり安心する。 今日の疲れもあって私はうとうととしてしまい、眠りへと誘われる。 「おーい。昼に俺に家に来いってテレパシーで呼んだの忘れてるのか? 居るぞー」 横になった私の頭を、兎の妖精キュアリンがつんつんと突く。 「もう流石に寝ないって。疲れたからベッドに飛び込みたかっただけ」 「本当か? お前は単純な所があるからな。まぁそこが良い所でもあるけど」 彼はキュアリン。"彼"という通り可愛らしい見た目の反面性別は男性であり、キュアリンという名前も日本のセンスに合わせれば「大地」という名前のようになるらしい。 彼らはキュア星という遠く離れた惑星から来た宇宙人で、地球に来て調べてる際にその時期に偶然出現したイクテュスに対抗する策としてキュアヒーローの変身道具を使ったらしい。 とはいえキュアヒーローは一定範囲内に居る同族の希望を集めて力に変える装置。地球においてキュア星人にはガラクタ当然だった。 「単純って……でもそんな私にこれを渡したのはキュアリンでしょ?」 キュアヒーローが現れ配信が始まってから半年程経過した頃、一ヶ月前に私はこのブローチをキュアリンに渡されたのだ。 その日から私はキュアヒーローとなり、ノーブルに助けてもらいながらも頑張ってきた。肝心のもう一人のアナテマにはタイミングが悪く会えていないが。 「そうだな……それでテレパシーで言っていたキュアヒーローが探られてるって話は本当なのか?」 「うん。波風ちゃんの親戚の大学生が調べてるらしい。しかも色々設備とか先輩とかも巻き込んでやってるっぽい」

  • 高嶺に吹く波風   3話 正体バレ

    「良い動きだった。最近君の活躍はめざましいね。これは君のファンも中々できたんじゃないかな?」 ノーブルがこちらに駆け寄って来て賞賛の言葉を投げかけてくれる。 「いやいやそんなノーブルさ……」 「待て待て。わたし達は同列の仲間だ。序列なんて作りたくない。だからわたしのことは呼び捨てでってこの前言ったろう?」 「はい……!! でもノーブルにはまだまだ及ばないよ。こっちや先のことまで気を配ってて……目先のことしか見えてなかった私とは大違いだよ!」 「うん……そうだね……あ、それより一つ頼み事してもいいかな?」 表情から余裕の色が消え、申し訳なさそうにしながら頭を掻く。 「もうあんまり時間なくて、助けた人とか任せても良い?」 「うんもちろん! 今日もありがとね!」 ノーブルは一言こちらにお礼を言い足早に去っていきすぐに見えなくなる。 「えーっと、そこのお兄さん大丈夫だった? 怪我はない?」 戦いでよく見えなかったが、もし彼が動けない程の怪我をしていたら大変だ。私はすぐに彼の元まで向かい容態を確認する。 「け、怪我はないです……ありがとうございます」 青年は恐怖という鎖から解放され何事もなくスッと立ち上がる。だが表情は暗く笑顔が失われたままだ。 「待って!! えっとその……何か困っていることとか……あるの?」 キュアヒーローの使命はイクテュスを倒し"人々の笑顔を守る"ことだ。それなら私は後者の使命を果たせていない。 「いや何もない……です……その、ありがとうございました」 彼は壊れた自転車を用水路から引っ張り上げ、もう直せるはずもないそれを見て肩を落とす。 「あのっ……」 「あぁいやもういいよ。見た感じ高こ……中学生? 君は学校あるでしょ? ここからはヒーローがどうこうする問題じゃないから気にしないで」 「……はい」 実際壊れた自転車を直す術なんて持ち合わせていない。彼の悩みはそれだけじゃないように思えたが、深くは立ち入らせてくれなさそうだ。 (ヒーローの問題じゃない……か) 私は結局彼の笑顔を見ることなくこの場から去り学校への道に戻るのだった。 ☆☆☆ 「誰にも見られてない?」 「うんもちろん」 一限目の途中。テレパシーでコピー人形の私を学校の人目のない物陰に呼び出す。 「じゃ、おやすみね」

  • 高嶺に吹く波風   2話 水の力

    「反応はここら辺……あっ!!」 私は上空から落下しながらモンスターを探していると田んぼの用水路の近くに人と同じくらいの大きさの化け物を見つける。 赤く硬い鎧を纏った両手に大きな鋏を持ったザリガニだ。ただ肥大化したのではない。針のような足を地面に突き刺し二足歩行のフリをしている。 「あ……あ……」 奴の近くで眼鏡をかけた青年が腰を抜かしていて、乗っていたと思われる自転車がザリガニの近くに落ちており真っ二つにされている。 「その人から離れろっ!!」 私は手から圧縮した水をレーザーとして発射する。しかし奴の甲羅は硬く鉄をも貫くレーザーが弾かれてしまう。 「うっ……!!」 一旦レーザーを止める。出力を高めれば貫けるかもしれない。だがもしまた弾き返されてしまったらあの人にレーザーが当たってしまう可能性がある。 (あの人腰を抜かしてるし……助けようにも両手が塞がってたら私がやられちゃうしどうしたら……) 奴と私が互いに睨み合う硬直状態に入る。レーザーがダメなら最悪ステッキで殴ったりも考えたがあの甲羅には通用しないだろう。 「シャインアロー!!」 しかし背後から叫び声と共に光の矢が飛んでくる。それは甲羅を貫通し奴の肩に突き刺さる。 《来たー!! キュアノーブルだ!!》 《美少女王子様は今日も格好いいなぁ……》 《最推しきたぁぁ!!》 彼女が姿を現すと私の方の視聴者がその人、キュアノーブルに釘付けになる。 黄金に輝く髪を後ろで結び、衣装には宝石らしきものがいくつかついている。まるで中世の貴族が本から飛び出してきたみたいだ。 「君はそこの人を安全な場所に!」 「はい!」 光の力で戦う私の先輩キュアヒーローであるキュアノーブル。人気は一番であり私が変身したての頃にも助けてもらっている。 相変わらずのリーダーシップと頼り甲斐のある背中であり、私は指示に従って一般人の青年を避難させるべく肩を貸す。 「動ける?」 「は、はい……すみません……!!」 背中はノーブルに任せて安全な場所まで彼を運ぶ。かなり距離を取った後すぐさまノーブルの元まで戻る。 手伝った方が良いかもと思ったが流石は彼女だ。私が苦戦した相手に汗一つかかずに押している。 「トドメ……」 ノーブルは光を纏わせ鋭さを与えたステッキを振り上げる。しか

  • 高嶺に吹く波風   1話 キュアヒーロー

    「なぁなぁ先週のキュア配信見たか?」 「あぁキュアノーブルの? 相変わらず強かったよな〜」 私達の横を同学年の男子達が他愛のない話をしながら通過する。 「でもさ……キュアウォーターも良くなかったか? あの青い新人の子」 会話の中にある一つの単語に反応し、盗み聞くわけではないがより神経を耳に集中させてしまう。 「あぁあの子? 新人なのに気合い入っててすごいよな〜何より可愛いし」 (か、可愛いか……うへへへ) つい笑みが溢れてしまう。何を隠そうとこの私が今二人が話しているキュアウォーターなのだから。 「高嶺《たかね》? 何気持ち悪い顔してるの? あとボッーと歩かないで車に轢かれるわよ」 私の大親友である波風《なみか》ちゃんが横断歩道の前で肩を掴み止めてくれる。信号は赤になっており先程の男の子達は既に横断歩道を渡り終えていた。 「あっ、ごめん! ちょっと考え事してて……あはは……」 「アンタ最近ボーッとしてること多いわよ。何かあったの?」 「え……いや……何もないけどぉ?」 波風ちゃんは相変わらず勘が鋭い。それに対して私は嘘をつくのが下手で彼女から疑いの眼差しを現在進行形で向けられる。 「はぁ……別にいいわよ隠しても。でも何かあったらアタシを頼りなさいよ」 「あはは……そうなったらごめんね」 なんだかんだ言ってかれこれ十年以上の付き合いだ。お互い信頼し合っている。 [おい高嶺大変だ! またイクテュスが出た! しかもここから近い!] 私達が仲良く通学路を歩いている最中。無粋にも突然脳内に私だけにしか聞こえない声、テレパシーが届く。 [今!? 通学路に居るんだけど……それも友達と一緒に! どうしよう!?] 私は口を閉ざしたままテレパシー上で応答する。 [そこなら近くに公園がある! トイレに行くふりをしてコピー人形と成り代わるんだ!] (う、うぅ……ごめんね波風ちゃん。これも街を守るためだから!) 「い、いててて……ごめん波風ちゃん! お腹痛くなっちゃって。トイレ行ってくるから先に行ってて!」 私は近くの公園へと駆け出し波風ちゃんを置いていく。 「え? 高嶺!! 学校間に合うのそれ!? ちょっと!!」 こちらを呼び止めようとする彼女を無視し心の中で謝罪しながら公園へと駆け込む。 「ここなら誰も見てない

Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status